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2008年02月12日
02:11
【6】  溶解について
 ホウ酸は水にとけるとき、温度が高くなるほど溶解度が高いのに、食塩では温度による溶解度の差がありません。この現象を分子の運動からどのように理解したらよいのでしょうか。水の隙間に溶質の分子が入り込むという素朴なイメージだけでは、うまく説明できません。温度によって、溶媒の分子が離れやすくなることは理解できるのですが、なぜ溶ける量そのものが変化するのでしょうか。
 また、食塩水が水に溶けるときには、水の極性によって、ナトリウムイオンと塩化物イオンが離され、水分子によって囲まれると説明されていますが、飽和状態になるのはイオンを囲む水分子の数に限りがあるからなのですか。食塩水と水は振ると泡の立ち方で区別できるということを子どもたちが発見しましたが、これは、食塩が溶けたことで分子の隙間が埋まったので、細かい泡がたつようになったと説明してもよいのでしょうか。
 もともと農学部出身の理科の教員ですが、小学生に「ものの溶け方」を教えているうちに、いろいろと疑問が沸いてきました。よろしくお願いします。
 
 
コメント
2008年02月15日
23:06
>>6. クニアキンさん [folo:fchem/277/topic/6/6]

長くなりますが、ご勘弁を。

版によって違うかも知れませんが、私が参照できる理科年表(データベース版)では50個の無機化合物について、0℃と20℃での溶解度が記載されています。そのうち、化学便覧で溶解熱(溶解エンタルピー)が確認できるのは41個でした。そして、そのうち溶解エンタルピーが発熱であるものは、次の19個です(22個は吸熱)。

アンモニウムミョウバン
塩化カルシウム
塩化コバルト(II)
塩化鉄(III)
塩化鉄(II)
塩化ニッケル
硝酸銅(II)
硝酸亜鉛
塩化マグネシウム
塩化ストロンチウム
塩化バリウム
亜硫酸ナトリウム
臭化ナトリウム
水酸化カリウム
水酸化カルシウム
水酸化ナトリウム
水酸化バリウム
炭酸ナトリウム
チオ硫酸ナトリウム

一方、50個の無機化合物の例について、0℃に比べて20℃での溶解度が低い化合物は水酸化カルシウム(発熱的に溶解)しかありません。つまり、溶解が発熱的である(溶解エンタルピーが負)=高温で溶解度が下がる、という理論に当てはまるのは1つしかなく、18個の反例があるということになります。

しかし、ことはそんなに簡単ではありません。

まず、ここで「溶解エンタルピーが負」といった時、原則的には無水物を相手にしていることです。例えば、塩化コバルトは溶解エンタルピーをみると-79.9 kJ/molの発熱です。しかし、よくご存知のように、塩化コバルトを水に溶かすと、まずコバルトイオンに6配位の水が配位し、[Co(OH2)6]Cl2という錯体が生成し、実際にはこの錯塩が水に溶けていくことになります。塩化コバルトが水和する時のエンタルピー変化は-89.45 kJ/molの発熱です。したがって、塩化コバルトの飽和水溶液で現実に存在している[Co(OH2)6]Cl2の溶解エンタルピーは、差引で9.55 kJ/molの吸熱ということになります。

18個の「例外」のうち(水酸化カルシウムは例外ではない)、化学便覧で水和エンタルピーが分かり、「実は吸熱」であるものを除外すると、次のようになります。

相変わらず例外(?)であるもの
 アンモニウムミョウバン
 塩化鉄(III)
 塩化鉄(II)
 塩化マグネシウム
 水酸化カリウム
 水酸化ナトリウム

水和エンタルピーが不明で判断できないもの
 硝酸銅(II)(硫酸銅と水和熱が同じとすると吸熱)
 硝酸亜鉛(硫酸亜鉛と水和熱が同じとすると吸熱)
 亜硫酸ナトリウム
 臭化ナトリウム(溶解エンタルピーがほぼ0なので、実質的にはたぶん吸熱)

ただし、化学便覧では水酸化カリウムの溶解エンタルピーについて次のような値が載っています。
KOH -57.61 kJ/mol
KOH•H2O -19.3 kJ/mol
KOH•2H2O -3.03 kJ/mol
一般に、水酸化カリウムが十分に水和するためには2分子以上の水が必要です。したがって、十分に水和された水酸化カリウムの溶解エンタルピーはたぶん正だろうと思います。

次の問題は、溶解エンタルピーが希薄溶液を相手にしているのに対して、溶解度は濃厚溶液を相手にしていることです。例えば、水酸化ナトリウムで溶解度の温度変化を考える時には50wt%という濃厚溶液に対する溶解熱を考えなければなりません。

ここで、再び化学便覧から、水酸化ナトリウムの無限希釈エンタルピーを引用すると次のようになります。
濃度 希釈エンタルピー
20 M -15.57
10 M -3.778
5 M -0.255
これより薄いところではほぼ一定になります。

これから分かることは、濃厚溶液になるに従って、水酸化ナトリウム水溶液は希釈熱が急速に増大する(発熱的になる)、ということです。このことは、濃厚溶液に水酸化ナトリウムを溶解し、濃度をさらに上げるのは吸熱的だということを意味します。

別の言い方をすると、我々が普通観察する「水酸化ナトリウムの溶解熱」というのは、実は「水酸化ナトリウムの水和熱」であるということです。水の極めて少ない濃厚溶液では、新たに水酸化ナトリウムを足しても、水和熱が稼げないどころか、数少ない水を奪い合って、むしろ吸熱になるのでしょう。それが、水酸化ナトリウムの溶解度が温度とともに上昇する理由だと思います。

理科年表の記載の化合物のうち、水酸化カルシウムだけが温度の上昇とともに溶解度が下がりますが、水酸化カルシウムの溶解度が非常に低いことには注目すべきだと思います。つまり、水酸化カルシウムは濃厚溶液を作りません。これが、水酸化カルシウムが溶解エンタルピーから予測されるような(素直な)溶解度変化を示す理由であろうと思います。

最後に、溶解度の温度変化を支配するのがエンタルピー変化(ΔH)かエントロピー変化(ΔS)か、という点について。

クニアキンさんは、ΔG=ΔH-TΔSの関係式から、溶解度の温度変化はΔSで決まると議論されました。それに対して、私は、溶解度の温度依存性はΔHによると議論し、ΔSは無視しています。私の見解では、溶解度というのは溶解平衡の平衡定数Kに対応するものです。そして、Kは、溶解による自由エネルギー変化ΔGに対して、K=exp(-ΔG/RT)=exp(-ΔH/RT)*exp(ΔS/R)で与えられます。したがって、溶解度の温度依存性はΔHで決まり、ΔSはとりあえず考えなくてよい、と思っています。

 公孫硫
2008年02月15日
23:08
>>7. マゼラン星雲さん [folo:fchem/277/topic/6/7]

>振ると、全体的に真っ白になって、細かい泡が立ち、再び透明になります。

これは、まだ飽和になっていない状態で、下に沈んでいる塩を、振って溶かした時のことですか? だったら、M&Mさんから指摘があったように、空気の溶解度が下がった(溶けていた空気が出てきた)のでしょうね。

私はてっきり、食塩水を振った時の泡の消える速度のことかと思いまして、見当違いのコメントをしてしまったようです。

 公孫硫
2008年02月16日
11:56
公孫硫さん
>いいえ、飽和水溶液には完全になっていないかもしれませんが、溶け残りのない食塩水をペットボトル(1.5L)に6割ぐらい入れたものを振り混ぜました。
>授業で、食塩水と水にはどんな違いがありそうかと聞いたところ、「味が違う」などの意見のほかに「振るとわかる」という児童がいたので、内心「まさか」と思いつつ、調べられるようにしておいたのです。
>消える泡の速度も違いますが、確かに真っ白になります。
>ところで、表面張力と泡の立ち方の関係ですが、石けん水は水より表面張力は弱くなっていて、泡はよく立つのですよね。
>水では、こぼれないけれどあふれる寸前の容器に石けんを入れるとこぼれるわけですから。
>水と石けん水の泡立ちでは、石けん水の方が大きめの泡が立ち、なかなか消えないですよね。
>食塩水では、かなり細かい泡が立つために真っ白にみえるようですから、振り混ぜることで混ざった空気の溶解度の差なのかもしれないなと思いました。
>しかし、小学校の理科もよく考えると奥が深いなあと思います。
>中学生に教えていたときには、全く疑問におもわなかったのですが・・・。
2008年02月16日
12:37
マゼラン星雲さん、公孫樹さん、クニアキンさん、こんにちは。

食塩水の泡立ちの問題は、どうやら空気の溶解度が減少するためと考えてよいと思います。
これを子どもたちでも実験で確かめる方法は簡単です。
(1)2本の試験管に水(できるだけ蒸留水)を入れます。水は空気と十分接触させたものを使います。
(2)一方の試験管はガスバーナーで加熱して水をしばらく沸騰させます。そしてすぐにゴム栓などをして空気が入らないようにして室温まで冷まします。
(3)2本の試験管に食塩を加えて振り混ぜ、泡立ちを比較します。

煮沸冷却した水に食塩を加えたものは、はるかに泡立ちが少なくなっているはずです。
アスピレーターなどが使用可能であれば、煮沸ではなく試験管を減圧することによって空気を除くことができます。
この実験をを通じて、
ア)水には空気が溶けこんでいること。
イ)沸騰させたりすると、溶けこんだ空気を追い出すことができること。気体は例外なく温度が高いと水に溶けにくくなること(これは炭酸飲料などを例に出せばすぐ理解されるでしょう)。
ウ)空気を溶かした水に食塩などを加えると、空気が溶けにくくなって小さな気泡になって出てくること(真っ白に濁る)。
ハ)再び透明になった食塩水を振っても泡立たないこと。
などを知ることができるでしょう。
因みに、2mol/Lの食塩水ですと、空気の溶解度は約半分に下がります。
2008年02月16日
13:15
>>11. マゼラン星雲さん [folo:fchem/277/topic/6/11]

 私は少し実験を誤解していたようです。
>いいえ、飽和水溶液には完全になっていないかもしれませんが、溶け残りのない食塩水をペットボトル(1.5L)に6割ぐらい入れたものを振り混ぜました。
>消える泡の速度も違いますが、確かに真っ白になります。

 確かに完全に食塩が溶解した食塩水を激しく振ると真っ白になります。食塩を加えない水と比較すると明らかに差がありますね。それではどう解釈したらよいかですが、やはり食塩を加えた水(食塩水)は空気を溶かしにくくなっているということで説明できるように思います。つまり、激しく振ったとき食塩を含まない水は空気の微粒子を溶かしこむが、食塩水はそれを溶かさないため、微粒子のまま残ると考えられないでしょうか。
 いずれにしても興味深い問題です。もう少し考えてみます。
2008年02月16日
22:32
M&Mさん

 どうもありがとうございます。実験で確かめる方法、とても参考になります。
この実験は、様々なところに応用できそうです。授業構想を立ててみようと思います。ところで、今日、理科教員の集まりがあったのですが、高温で溶けたミョウバン結晶が析出する様子を映像に記録したことのある人がいて、析出の直前に「もやもや」(うちの子どもたちにいわせると「ネローンとしたの」)が見えるというのです。溶解していくときにも、見えるので興味深く感じました。また、光の屈折率も少し変わっているようですね。少ない設備でも小学生のレベルで、ミクロの溶解現象に迫っていけるような授業が組めるとおもしろいのですが。
2008年02月17日
16:20
>>9. 公孫硫さん [folo:fchem/277/topic/6/9]

詳細な考察をどうもありがとうございました。

web上を見たら、
http://members.aol.com/youchanx/lechatelier.files/naoh.htm
のような考察もありました。

時間のある時にゆっくり勉強させてもらうことにします。
とりあえずお礼まで。
2008年02月25日
23:38
>いろいろなコメントありがとうございました。
>相変わらず、子どもたちはペットボトルを振り混ぜていますが、間違いなく空気の溶解度の減少です。
>よく、観察するとはっきりわかります。
>「溶解」という現象について、かなりイメージが深まりました。
>ところで、何かよい一般向けの読み物や、生物系の学部卒にも歯が立つような参考書など、ありましたら教えていただけますか。
>2種類以上の物質の溶解度の関係など、いろいろ知りたくなりました。
2010年04月07日
21:40
亀レスですいません。
公孫硫さんの
>K=exp(-ΔG/RT)=exp(-ΔH/RT)*exp(ΔS/R)
の式ですが、ΔHおよびΔSを定数として考えられていると思います。
実際にはそれぞれ温度の関数ですので、結局のところ
溶解度の温度依存性は、エンタルピーとエントロピーの兼ね合いによって
決定されるのではないでしょうか。
2010年04月08日
19:10
>>17. MUKさん [folo:fchem/277/topic/6/17]

ΔHとΔSが温度の関数なのはその通りですが、温度依存性は(普通は)ほとんどありません。室温から100℃程度までの範囲では定数と見なして問題ないと思います。つまり、ΔH/RT項(Tが生の形で入ってきている)の温度依存性に比べて、ΔS項の温度依存性は圧倒的に小さい、ということです。

 公孫硫
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